基地ログ!

旅するカッパのチャノマハウス。時々開店、河童バー。

殻を脱ぐまで

 

カチンだったか、ゴンだったか。

アタシの殻が壊れる音。

 

ガレージの壁をライトブルーに塗った日。

モノが家中の通路にひっくり返ってた明け方のこと。

寝てる間に、魂が肉体から離れて、

ふらふらしてる時に、

寝ぼけた私が起き出して、

慌てて肉体に戻ろうとしたばっかりに、

床に転がしていたスクリーンにつまずいて、

転んでしまったのよ。

 

魂のバカ。

 

おかげで、

アタシという「人間」だと思っていた体が、

ただの殻のような服だってことが

アタシにバレちゃったじゃないの。

 

アタシは戻れなくなった。

アタシという服を着ていた自分に。

 

あれから半年経って、

アタシは、まだアタシという服を着ている。

けれど、それは服。

 

肉体まるごと、服のようなものだってことを

知ってしまった事実を知る前には

もう戻れない。

 

もちろん、まだ命はあるから、

脱ぎ捨てるわけにはいかない。

 

でも、日々、その事実は明白になる。

もうアタシが元のアタシとは違うということ。

 

ほら、ゆで玉子。

殻を剥く時に、コンコンってやるでしょ?

そして、割れたとこから空気が入って、

ツルンって剥けるのよ。

 

剥けちゃうと、どうなるんだろ?

 そのままあの世に行っちゃうのかしら。

 

アタシはまだこの服を脱ぎ捨てる気も、

そんな未知の世界へ旅立つ準備も出来てない。

 

だから、なるべく、そのツルンッが起こらないように

気づいてないフリをしてるの。

 

今は、ね。

 

いつまで自分を騙せるのか。

ツルンって剥けちゃったら、どうなるのか。

 

そんなことを考えてると、

殻が残念そうに、アタシを見るの。

「そうでしたか、気づいてしまいましたか」って。

 

これからどうしたらいい?

 

そう聞いたら、殻が言ったわ。

「どうもこうも、これからは二人三脚です」

 

アタシ、あなたを大切にするわ。

 

だって、

あなたもアタシも、

もう過去に戻れないんだから。

 

いつか、ツルンって、

アタシがあなたを脱いでしまうまで、

アタシはこの殻の服のヒビを愛おしみ、

ツルンってうっかり脱いじゃわないように、

毎日をスリリングに生きながら、

 この魂の殻を、これまで以上に楽しむって約束する。

 

本当よ。

誓いなんて、入籍した時にさえしなかったけど、

アンタには誓うわ。 

 

そう言ったら、

アタシの殻は、スッとテーブルに手を伸ばし、

冷蔵庫から取り出したビールを口に運んだ。

 

殻と私の契約が完全に結ばれた瞬間。