基地ログ!

旅するカッパのチャノマハウス。時々開店、河童バー。

旅するピーターパン

4月の終わりの夜、ロサンゼルスは寒かった。

今日、最後のゲストが到着するのは、午前零時過ぎ。

メールの感じからすると、ちょっと面倒くさそうな客のような気がした。

部屋にヒーターを入れて待つ。

 

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午前零時を90度ほど回った頃に、キッチンテーブルにおいた携帯がなる。

「ピーターだ。今、着いたんだけど、どこから入ればいい?」

「二階に。二階に上がってきて」

階段の向こうに、駐車場に無造作に停められた車の後部が見える。

「その車、まっすぐ停めて」

「車は、僕のじゃない。わかった、上に行く」

大きな荷物を持って上がってきたのは、初老の白人の男性だった。

 

寝室とバスルームを案内した後、寒かったので、お茶を勧めた。

「ああ、それは嬉しいな。イングリッシュティーは大好きなんだ」

ポットに水を入れて沸かす間、ピーターと私の会話が始まる。

「今日はどこから?」

「ボストンの近くの港町からさ。

 旅が好きでね、いつも旅をしてるんだ」

「仕事は何してるの?」

「セールスだよ」

自営業っぽい。自由な感じがする。

 

お茶を淹れながら、あぁ、こんなふうに、ゲストと話すのは

久しぶりだなあと気づく。いつもは、真夜中のチェックインは、

ゲストだけでもチェックインできるように案内をテキストで送って、

私は気にかけながらも、寝入ってしまうことが多い。

 

「お砂糖、ミルクは?」

うーんと考えてるんで、きっとミルクだけはいるんだろう。

「ミルクをもらおうかな」

当たり。

 

「ロサンゼルスには、ボイストレーニングにきたんだ」

「役者さん?」

「いや、スピーチをするのでね」

「ああ、もしかして、モチベーショナルスピーカーみたいな?」

「モチベーションっていうより、インスピレーションかな?」

「ふーん?」

「ほら、クレイジーなことを言ってるばかりで、全然行動に移さないやつ、

 多いだろ?そういう奴のためのちょっとした小話さ、僕がするのは」

「うちの旦那は、私がクレイジーだってよく言うわ。

 ここにも、クレイジーな人たちが時々来るけどね」

「そりゃいい。人生がカラフルになる」

 

自分のためにもお茶を淹れて、手を温めるようにカップを抱く。

もしかしたら、この人は、ピーターパンかもしれない。

名前もピーターだし。

影法師を探しに来たピーターパンじゃなくて、

私の影法師を、ちょっと引っ張ってくれるような会話が進む。

 

「この間はマケドニアに行ったんだよ」

ピーターは、家族がいても、よくひとりで旅をするらしい。

旅をした場所には、中東の紛争地帯も含まれる。

「アフガニスタンを旅した時は、うっかり間違ったバスに乗って、

危ない地域に向かって、3時間もバスに乗ってたんだよ」

「バス、目の前にやってきたバスによく飛び乗ったわ、メキシコで」

「そうそう、どうせ最後まで行った後、戻ってくるんだからね」

なんかやってることがよく似てる。

 

ピーターは、タイに家族がいる。

娘が二週間後に高校を卒業すると言う。

 

「その娘がさ、14歳の時かな。夏にボストンに帰ったのさ。

娘がワンディレクションのファンで、コンサートで知り合った子と

友達になって、その子の親が音楽関係の仕事してて、チケットが

安く手に入ったからって、二週間くらいの予定で行ったら、

いろんな偶然が重なって、3年も住んでたんだよ(笑)」

「じゃ、タイにいた奥さんも呼んで?」

「そうそう、家族で3年。そこで借りた家が売りに出すっていうから、

 それでタイに戻ってね」

 

聞いてると、ピーターは世界中に家があるらしい。

それでも、ホテルが嫌いで、もっぱらAirbnbを使ったり、

時には極上のテントを買って、ビーチに泊まったりする。

 

「人生は一回だろ。後悔しないように、やってみることさ」

お茶を淹れたカップを回しながら、思い出したように言う。

「娘がね、勉強しなきゃ!っていうんだけど、僕はね、

 楽しめ、Have fun っていうんだ」

 

なんでもない会話なんだけど、今日は、書き留めたくなった。

 

書きながら、海童(かいどう)をお湯割にして一杯。

 

Airbnbやってると、会う機会がなかった人と、こんなふうに出会う。

そして、一杯、おいしいお酒が飲めるって仕組み。

こんなことして生きてます。